オーシャン・ドリーム号の悲劇 船 ・・・20年目の夏
28.
 3月下旬、春うららかな日の朝、福山は、妻の理恵子と進木を伴い、新幹線「のぞみ」に乗り込んだ。座席を向い合わせにして3人が座った。
 年度末ということで、出雲へ社員旅行に行くことになったのだが、クライアントの都合で、数名が参加できなくなってしまった。日を改めようともしたが、日程が組めず、予約をしていたこともあり、今回は、予定通り行くことにした。
 そこで、福山が、急遽、黒岩や横浜FMのいつものメンバーに参加しないかと呼びかけたところ、黒岩と、佐伯、若木が一緒に行けることになった。その3名は、新横浜から乗ってくることになっている。
 「でも、全員で来れなくて残念でしたわね」
 窓側に座っている理恵子が福山に言った。理恵子は、花柄のブラウスにフレアの入ったクリーム色のロングスカートを身にまとっている。理恵子は、元歌手なので、いつ誰に気づかれるかもしれないという思いがあるようで、衣装には結構気を使っている。福山は、もっと落ち着いた衣装の方が目立たないだろうと言うのだが、遠出をする時は、いつも現役の歌手並みだ。心のどこかではむしろ気づかれたいのかもしれないと、福山は思っている。
 「そうだね。申し訳ないが、次の機会に穴埋めをするとしよう」
 「社長、そう言えば、お土産よろしくって言ってましたよ」
 理恵子の向いに座った進木は、白を基調とした春らしいスーツを着ている。はつらつとした若々しさに溢れている。
 「そうだね。何か記念になるような物を買って帰ろうか」
 「出雲らしい物がいいですよね。でも、私、出雲は初めてだから、何が記念になるのかよく分かりません」
 「まあ、行く先々で何か良さそうな物があったら買えばいいよ」
 「そうですね。でも、私、もしかしたら、ここにもこの世にも存在していなかったのかもしれないんですよね。本当に良かった」
 「雪絵ちゃんは、時々、思いもよらない行動に出ることがあるから、驚いてしまうよ。でも本当、雪絵ちゃんのお蔭で、岸本耶須子さんや俺たちも、命拾いしたよ」
 「そんなことないですよ。あの時は、伊藤さんに助けられました。ほとんど刺される寸前でしたから。もうだめだと思いましたよ」
 「そうだよなあ。思い出すだけでも恐ろしくなるよ」
 「その伊藤さんって方、あの年賀状を頂いた方でしょう。その後、容態はどうなんですか」
 理恵子が、心配そうに福山に聞いた。
 「どうにか一命は取り留めてはいるんだが、まだどうなるか分からない」
 「そうなの。あの年賀状の意味はまだ聞いてないんでしょう。また、お聞きできるように早く回復されるといいですわね」
 「それなら、大凡は聞いたよ。伊藤氏は、どうも、あのオーシャンドリーム号の沈没に関係していてね、その亡くなった人たちを思う歌だったようだ。おそらく、懺悔の思いが込められていたのかもしれないよ」
 「でも、どうしてそんな歌を貴方への年賀状に書いたのかしら」
 「その件を、黒岩と追いかけていたからだよ。立場上ではその真相を隠蔽していたんだが、心のどこかでは、呵責の念もあったんだろうね。ところが、そんな心のスキを見抜かれて始末されかけ、いまだに予断を許さない状態にある」
 福山が、ふと車窓を見ると、もう横浜に近づいていた。
 新横浜駅に着き、3名が予定通り乗車してきた。
 一通り挨拶を交わし、女性4名が向い合わせに座り、福山と黒岩は、通路を隔てた反対側に並んで座った。
 「黒岩、急に声をかけて悪かったな」
 「年休が取れてなかったからちょうど良かったよ。スイスじゃ、年次有給休暇は40日取ることが義務付けられていて、それでも労働者の体にストレスがかかるからと、今、60日に増やす法案が議論されているようだ。わが国とは大違いだよ。この国の労働者は、ほとんど奴隷のような扱いだ」
 「そうだな。だが、本質は、かなり奥が深いよ。この国が他国と一番異なるのは、我が国の庶民は、1300年にわたって騙され続けているということにあるんだよ」
 「どういうことだ?」
 「以前、黒岩に話そうとしていたことなんだが。今回、その話をしようと、資料を持ってきたんだよ。まずは、これを見てくれ」
 福山は、黒岩に、プリントアウトしてきた資料を手渡した。
 「我が国の本当の姿を知ろうとしたら、紀元前の中央アジアにまで遡らないと理解できないんだよ」
 福山は、東川から聞いた話や今まで調べたことを黒岩に話した。
 「唐王朝だって?」
 「ああ。1300年にわたって、この日本の人々は、彼らの支配下に置かれたままだ」
 「そんなこと誰も知らないし、全く思いもよらないことだよ」
 「そうだよなあ。言ってみれば、1300年間秘匿され続けている我が国の最大の秘密なのかもしれない」
 「本当なのか」
 黒岩は、初めて聞くことで、驚くというよりも、にわかには理解し得なかった。
 「我が国の成り立ちの歴史は、ほとんどフィクションだ。だが、子どもの頃からそれが歴史だと教わると、そうとしか考えられなくなるんだよ。逆に、これが本当の歴史だよと言われても、そんなことに騙されないぞと、フィクションの歴史から逃れられなくされてしまうくらいだ」
 「まるで洗脳じゃないか」
 「人類史上稀に見る国家的洗脳教育かな。これが、他国と根本的に異なるところだ。唐王朝による占領支配の痕跡は、ほとんど消されているが、そういう視点で見れば、結構残されているもんだよ。だが、そういう視点で見なければ全く見えない。暗闇でサングラスを掛けさせられているようなものだ」
 「しかし、たとえ、過去にそういうことがあったとしても、それは昔のことじゃないのか?」
 黒岩の思いは、福山もそうだったように、そういう話を聞いた者がまず思うことだった。むしろ、過去のことであって欲しいという思いの方が強いのかもしれない。また、歴史に興味を持ち、その研究を深めた人ほど、洗脳状態も根深いと福山は感じていた。自らが調べてきたことや、自らが築いてきた歴史認識が否定されることになるからなのかもしれない。
 「唐王朝によって占領征服されたことが認識できるかどうか、それが我が国の本当の歴史に到達できるかどうかの試金石だよ。そして、その唐王朝も907年、朱全忠らによって滅ぼされ、王朝貴族は、大陸から追放されるんだ。では、その貴族たちはどこへ逃れたと思う?」
 「さあ、どこなんだ」
 「この列島だよ。その後、この列島では、その貴族たちは、この列島の人々から徹底して収奪し、後の時代にまで栄耀栄華を極めることになる」
 「そうなのか。まあ、この列島を支配下にする藤原氏の出自はよく分かっていないからなあ。国を支配下にするほどの勢力が、どこからどのようにして生まれたのか分からないという方が変な話だよな。秘匿されていたということか」
 「そうだ。その上、彼らは、大陸にいた時から、徹底してこの列島を蔑視していたんだ。だから、いつまでも、この列島に追いやられていることに安住などするつもりはない。いつの日か必ず大陸の支配者として舞い戻れと子孫に伝え残した」
 「大陸に戻る?」
 「それも、ただ、戻るのではなく、唐王朝の再興を果たせだ。つまり、東胡・鮮卑族の支配の再構築だ」
 「お家再興といったところか。だが、そんなことができるのか」
 「王朝貴族の彼らにはそんな力はない。だから、この列島の人々を騙して、大陸侵略の手先にするという手法を考えた。まあ、そうするしか方法はない。だが、騙していたことがバレたら、大変なことになる。そういった手法を伝え残しているのが、因幡の白兎の話だ。この列島の人たちを騙して大陸侵略へ向かえ、しかし、そのことを決して悟られるなというのがその逸話に秘められたメッセージだ」
 「そんなことがあるのか?」
 「その唐王朝再興のために、この列島から大陸侵略を目指したのが、秀吉の時代の朝鮮出兵であり、明治維新以降の大陸侵略だよ。維新などと言って、さも新しい改革かのように思わせ、その本質は、この列島の人々を大陸侵略へと扇動することにあったんだ。その後、敗戦に至るが、彼らは、決してその思惑を捨てたわけではない。だが、大陸諸国も警戒するし、彼らも、我が国だけでどうにかなるなどと思ってもいない。つまり、強力な米軍と共に大陸侵略に向かうことにしたんだ。その準備工作を徹底しているのが今だよ」
 「確かに、アメリカや我が国の政府は、軍事のことには熱心だ」
 「いいか、黒岩。その大陸侵略への『のろし』を上げたのが、オーシャンドリーム号の撃沈だよ。アメリカも日本の支配勢力も本気だということの証、その血判状のようなものだ」
 二人の話は、止まることなく続いた。
 そして、昼頃に岡山に着き、特急に乗り換え、出雲へ向かった。
 「そう言えば、出雲は、福山の故郷だったな」
 「そうだ。今は、出雲と呼ばれているが、古くは『やまと』と呼ばれる都があったんだ。これからその痕跡をお見せしようと思っている」
 「ほう。わが国の秘められた古代の都『やまと』探訪の旅か。なかなか面白そうだな」
 「これが、その資料だ。後で説明するから、とりあえず、見ておいてくれ」
 「そうか」
 黒岩に渡された資料には、いくつかの和歌が載せられていた。
 「万葉集か?」
 「そうだ」
 黒岩は、目を通したが、万葉集にはそんなに詳しくなかったので、よく分からなかった。
 それを見ていたら、黒岩は無性に眠くなり、列車の揺れに身を任せながら、意識が薄れていった。
 

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邪馬台国発見

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