=歴史探訪フィクション=
(2)
恵美は、また、別の歌の原文を画面に出した。 鯨魚取 淡海乃海乎 奥放而 榜来船 邊附而 榜来船 奥津加伊 痛勿波祢曽 邊津加伊 痛莫波祢曽 若草乃 嬬之 念鳥立 「第2巻の153首よ。原文では『淡海乃海』とあるけど、同様に『近江の海』、つまり琵琶湖だと解釈されているわ。でもね、念を押すようにわざわざ海としているのよ」 「大きいから琵琶湖を海と見立てたんじゃないの。さっきの解釈みたいに」 「見立てた?」 祐介の言葉で、恵美の中で、何かがひらめいた。 「どうしたの? 何か変なこと言ったかなあ」 恵美は、今まで頭の中で渦巻いていた疑問を解く糸口が、見えたように思えた。 「そうよ。見立てたのよ」 「だから、見立てたって言ったじゃないか」 「佐田君、お手柄よ。今の、佐田君の言葉で、ようやく分かってきたわ」 「僕には、何のことなのか良く分からないよ」 「ほら。ここを見て」 祐介は、恵美が指し示すところを見た。 「原文で、『鯨魚取 淡海乃海乎』とあるでしょう」 「さっきから見ているけど、それが?」 「この『鯨魚』の文字はね。『いさな』と読んで字のごとく『くじら』を意味しているのよ」 「『くじら』だって?」 「考古研でも琵琶湖の生成の歴史を調べたことがあったけど、今も古代も海にはつながっていないから、琵琶湖に鯨が居る筈はないの」 「だよな」 「この歌は、勢い良く鯨漁に船が出て行く情景を詠っている歌なのよ」 「ということは、この歌は琵琶湖では詠われていないということ?」 「そうなるわね。つまり、万葉集で詠われている『淡海』とは、琵琶湖ではなかったということよ」 「ええっ、本当に」 「さっき、佐田君が言った『見立てた』という言葉で分かったのよ。『見立てた』のは、歌を詠んだ歌人ではなく、解釈をした人たちよ。歌人が無いものをあるように『見立てた』のではなく、解釈した人がそう『見なした』ということなのよ」 「どうなっているんだろう」 「そう考えたら、今まで疑問に思っていたことが、少しずつほぐれてきたわ」 「『淡い海』と詠われた場所は、琵琶湖ではなかったけど、琵琶湖だと『勝手に見なした』ということなんだ」 「そう考えると、辻褄が合ってくるのよ」 「じゃあ、どこで詠んだのだろう」 「『淡い海』と言ったら、もうそこしかないわ」 「何処?」 「海ほど塩分が濃くなくて、でも真水ではない淡い塩分の海と言えば分かるじゃない」 「えっ、まさか宍道湖?」 「そうなのよ。まさしく宍道湖は塩分が薄い『淡い海』よ」 宍道湖の塩分は、斐伊川から流れ込む水流により、薄いところでは海水の35分の1くらいまで低くなり、中海に近いあたりでは、およそ4分の1程度となる。 また、海にも繋がっているから、宍道湖から鯨漁に出ることもできる。 南氷洋にいるような巨大な鯨はいないが、日本海にも20種類以上もの鯨がいる。昭和30年代には、美保関湾で鯨を生け捕りにして淀江港に寄港した男性のことが、ニュースにもなっている。 「そうなると、宍道湖に間違いないか。では、どうして、琵琶湖だなんて解釈されているんだろう」 祐介は、さらに疑問が深まり、頭の中がこんがらがって来そうだった。 「佐田君、どうしよう。私、ちょっと震えてきているの」 「ん? 風邪でもひいたの?」 「そうじゃないでしょう。すごい発見かもしれないのよ」 「何が?」 「『近江』は琵琶湖だと誰も疑うことなくきているでしょう」 「そうだよ。『近江』は琵琶湖だよ」 「『近江』とは、万葉集に詠われている『淡い海』が、琵琶湖を詠っているという解釈から来ていたのよ。ところが、万葉集に詠われている『淡い海』は、実は宍道湖を詠っていた。つまり、その歌も含めて、万葉集には出雲の地が詠われていたことになるわ」 「そうなるかな」 「じゃあ、佐田君、万葉集第2首の歌も、ひょっとして奈良大和ではなく、本当は出雲の地で詠われていたとしたら?」 「ええっ、出雲で?」 「私、鳥肌が立ってきたわ」 「でも、第2首が出雲で詠われていたとしたら、出雲に都があったことになるんだよ」 「そうなるわ。だから、今、私・・・」 恵美は、その歌を食い入るように見ていたが、確信を持ったようだ。 |
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邪馬台国発見
ブログ「邪馬台国は出雲に存在していた」
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