=歴史探訪フィクション=
(3)
「間違いないわ。この歌は、出雲で詠われている」 「本当に、そうだとしたら、大変なことだよ。冒頭の第2首が、出雲を詠っているということになると、万葉集そのものの趣旨が変わってくることになるかもしれないよ」 「でも、この歌は、出雲で詠われているわ。考古研で、島根半島は、古代、島だったとあったでしょう」 「あっ、細長い島だ。まさしくトンボのような島だよ」 「古代の出雲は『たたら製鉄』が基本産業だったから、その製鉄のために、木を3日3晩燃やし続けると聞いたわ。鉄1トンを作るのに60トンもの木材を燃やすそうよ。加工でも火を燃やすわ。つまり、『煙立ちたつ』の煙は『たたら製鉄』の煙だったのよ」 「なるほど。じゃあ、鴎は?」 「日御碕から、稲佐の浜にいっぱい飛来して来るじゃない」 「あれは、ウミネコだよ」 「鴎科の鳥よ。それに、佐田君、すぐに鴎とウミネコの違いが分かる?」 「よく分からないよ。そうか、鴎だ」 日御碕神社の前には御厳島(みいつくしま)、あるいは経島(ふみじま)とも呼ばれている、古来より年に1回、神官が、例祭の時に入ることしか許されていない禁足地の島がある。その島には、毎年12月になると、ウミネコが5千羽もやって来て、翌年7月にはまた飛び去っていく。つまり、その御厳島は、ウミネコの繁殖地として保護されてきている。 「煙、鴎、トンボのような島と、歌の条件が揃っているでしょう。おそらく、出雲がこの列島の都だったのよ。『あきづ島やまと』とは出雲の地を意味していたんだわ。そして、そこに君臨する大王が、天の香具山に登って国見をした」 「出雲がこの列島の都だったなんて、なんだか、僕までぞくぞくしてきたよ。そうなると、『天の香具山』は出雲にあったことになるよ。でも、そんな山が出雲にあるなんて聞いたことないよ」 「無い所には有り、有る所には無い」 「何だよそれ、まるで禅問答だな」 「出雲のことよ。出雲にあったものが出雲には無いとされ、他の地には本来無いものがあったとされている」 「で、その香具山は何処に?」 「国原や海原が見渡せて、昔も今も見晴らしの良い場所といったら、もう古来より四つの神社で守られているあの山しかないわ」 「そうか、『奉納山』だ!」 「あの『奉納山』こそが、『天の香具山』だったのよ」 「大変だよ。恵美さん、これはすごい発見だよ。でも、山は他にもあるけど、本当に『奉納山』だったのかなあ」 「それはね。他の万葉集の歌との関係でも、そこでなければいけないのよ」 「『奉納山』でないといけないって?」 「佐田君、私ちょっと疲れたわ。少し休ませてね」 「ああ。大丈夫かい。顔色が良くないよ」 恵美は、万葉集の解釈の大きな飛躍に胸を締め付けられるような苦しさを感じた。それは、余りの驚愕の事実に迫ったことによるものなのかもしれない。また、わが国では今まで秘匿され続けていた歴史の真実に行き着いた、とも言える。そこへ足を踏み入れることは、同時に、これまでのわが国の歴史認識との正面対決をも意味する。恵美は、今、自らの手で、わが国の古代史解明の扉を開けようとしている事を実感しながら、近くのソファにしばらく体を預けた。 そして、ふと、玄関を出て行く人影を感じてそちらを振り向くと、先ほどのお年寄りが杖を突きながら出て行くところだった。随分熱心に資料を見ていたんだな、と恵美は思った。 祐介も、恵美のことを気遣ってか、また次回にと帰っていった。 思わぬところで、万葉集や出雲、さらにはこの国の歴史の真実にまで迫ることになった。 しかし、まだ、事件との関連や犯人の思惑は見えてこない。 ・・・何を伝えたいのよ、あなたは。 |
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邪馬台国発見
ブログ「邪馬台国は出雲に存在していた」
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