オーシャン・ドリーム号の悲劇 船 ・・・20年目の夏
最終章.
 旅行3日目の朝、一行は、昨日泊まった玉造温泉のホテルを出ると、勾玉伝承館にやって来た。
 「へえ、こうやって勾玉が作られていたのね」
 進木が、興味深そうに展示物に見入っている。
 そこでは、瑪瑙や水晶をはじめ、様々な石による勾玉の装飾品が展示されていた。また、勾玉作りの体験もできる。
 「では、みなさん。これから、勾玉作り体験をしましょう。それぞれ、みなさんの思いを込めて、オリジナルの勾玉を作ってください。ストラップやネックレスなど、自分のためにでもいいですし、誰かへのプレゼントにもできます。一時間程でできるでしょうから、その後、この二階のレストランで、出雲ソバ、シジミ、カニ、白魚といった地元の名産たっぷりの昼食を食べていただいて、帰路につきます」
 福山は、みんなを勾玉作り体験工房に案内した。そして、めのう細工職人に指導を受けながら、みな思い思いに、勾玉作りに挑戦した。
 そして、昼食を済ませ、土産物も購入し、玉造駅へと向かった。松江駅で特急に乗り、岡山から新幹線で東京へ向かった。来た時と同じように、女性たち4人は、座席を向い合わせにし、福山と黒岩は、その横に並んで座った。2泊3日の楽しかった旅行もいよいよ終わろうとしていた。
 「本当に出雲に来て良かったよ。出雲には、数多くの遺跡や神社、神事が残されている。これは、他の地域に追随を許さないほどだ。だが、それらが何を意味しているのかは、謎とされてきているし、自分でも良く分からなかった。それが、少し分かってきたような気がするよ」
 黒岩が、福山に話しかけた。

 「そうか。それは何よりだ。確かに、1300年にわたって、秘匿されてきている歴史だから、そう簡単には納得はできないかもしれない。しかし、それは単なる歴史認識だけにとどまらないんだ。我が国の支配勢力は、徹底してこの国の人々を収奪してきているし、彼らは、他民族による支配を認識している。つまり、支配下にある庶民を奴隷としか見ていないということだ。だが、庶民は、他民族の支配下にあることなど認識できないから、いつまでも奴隷のごとくに支配され続けている。言ってみれば、鵜飼いの鵜のようなものだ。ところが、自分が鵜だということも分からないし、鵜匠の存在すら認識できない。それどころか、鵜匠が首をさらにきつく絞めてやると言っても、それが改革だと思わされているんだよ。知らないということは、本当に哀れなものだ」
 「ほとんどの人間が、巧妙に支配されているから、騙されていることすら分からないんだよなあ」
 「そして、その先は、大陸侵略の手先にされるところにまで行き着く。過去、唐王朝がこの列島に送り込んだように、そして、戦時中、朝鮮半島を植民地支配した時と同じようにだ」
 「でも、そんなことが、簡単にできるとは思えんぞ」
 「それを可能にする唯一の方法が、貧困だよ」
 「貧困が?」
 「この列島では、人が暮らすことが困難になるほど徹底して収奪する。そして、大陸へ行けば、そこには幸せが待っていると誘導するんだよ。戦時中、地主は耕作地があるにもかかわらず、耕作させなかった。そうなると小作人は生きていけない。そこで、地主は、小作人に、大陸へ行けば耕作地がたくさんあるから、裕福な暮らしができるぞと勧め、そして、残った小作人は、その分、耕作地が増えるから残った小作人も豊かになるぞと、大陸へ行くように誘導したんだ。他の産業もそうだ。大陸へ行くと大金持ちになれるぞと言って、大陸侵略、植民地支配に乗せられた。しかし、今は、地主がいないから、政府が減反をして、農家を農業で暮らせないほどに貧困に落とし込んでいる。庶民を貧困のどん底に陥れ、そして、大陸にこそ光明があるかのごとくに、政府財界マスコミ界が、こぞって扇動する。あとは、米軍と自衛隊が殴りこみを掛けるだけだ」
 「しかし、本当にそんなことを考えているのか?」
 「そうではないことを願いたいが、歴史のすべてがそれを証明している。だからこそ、彼らは歴史を歪め、自らの正体や思惑がばれないように、徹底して彼らにとって都合良く塗り替えたフィクションを、この国の歴史だといって庶民に押し付けている」
 「そうなると、この国は、またとんでもない方向に進むことになってしまうぞ」
 「彼らのやることは確かに巧妙だが、手法は明治維新以降の手法を再び使うしかない。維新だと称して何か新しい改革のごとくに見せようとするが、内実は、明治憲法の時代に戻そうとすることに過ぎん」
 「なるほど」
 「わが国の支配勢力が目指す方向は、ただひたすら大陸侵略だ。その第一歩、スタートを切ったのが、オーシャン・ドリーム号の撃沈だということだよ。それ以後、わが国の支配勢力は、あらゆる政策を、大陸侵略につながるように画策している。わが国の人々は、改革だと思わされながら、再び1300年来の奴隷状態に戻されていくことになる」
 「何とか食い止めないと、本当に大変なことになってしまうぞ」
 「そうなんだ。ところが、支配勢力が庶民を大変な状況に陥れておきながら、さらに大変なことになってしまう彼らの誘導する方向が、庶民には救われる道だと思わされているから、事態は極めて危険だよ。その上、危険だという認識も全く無い」
 「そうなると、彼らの思いどおりにされてしまうだけじゃないか」
 「だから、それを阻止するには、彼らの本性が何者で、何を企てようとしているのかを知らせることが、最も重要になる」
 「まあ、そうだよな」
 「そして、アメリカとわが国の支配勢力の大陸侵略という思惑を打破できるだけの対抗軸を、わが国の人々が築けるかどうかにある。だからこそ、それを構築させないように、彼らは徹底して攻撃を加える。国民の反撃をどう抑えるかが、彼らの最大の関心事でもある。労働組合対策、選挙制度、改憲などなど、徹底して国民の声を封殺しようとしている。本当に、今ほど真実を知るということが、こんなにも大切だと思うことはないよ」
 福山は、日本の進路が、危険な方向へ大きく歪められようとしていることを、どれだけの人たちが理解できているのだろうと、背筋に冷たいものが流れるような思いがした。
 『対抗軸の構築か・・・』




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