=歴史探訪フィクション=

 人麻呂の怨・殺人事件


第3章 (2)

 「借金漬けにすることが、出雲市にとっていいことなのか」
 「先のことを考えるべきだ」
 「ちょっと、ちょっと、私語は慎んでください」
 三上の制止で、険悪なムードになりかけていた発言が止まった。
 その後、学術研究者や市の財政課、老人会の代表など何人かが発言したが、議論は平行線をたどり、結論は出そうにもなかった。
 「よろしいかな」
 加藤理事長が手を挙げた。
 「どうぞ」
 「積極的なご議論をいただきありがとうございます。今日提起したことや皆さんが発言されていることは、いずれも最もなことだと考えます。同時に、それは、今日ただちに結論が出るところとも思えません。本日いただいたご意見を元に、今後さらに理事会等で深めていくということにしたらどうでしょうか」
 数名から、異議なしの声が出た。
 「今の理事長の言葉にもありましたように、今回の提案事項は次回に持ち越し、理事会等で議論を尽くしていくということでよろしいでしょうか」
 三上が見回したが特に異論は出なかった。
 「では、提案された当面する活動方針に基づき、また、今のところも含めて進めていくことが確認されたものと見なします。それ以外にご意見はございませんでしょうか」
 「はい」
 「どうぞ」
 「私は、出雲市観光アドバイザーという仕事をいただいております福山勇一と申します。今、住まいは神奈川県なのですが、出身は出雲市です。首都周辺で出雲市に関わる情報を広め、あるいは向こうでの情報をお返しする橋渡しのようなことを言いつかっております。その役割からも、今の皆さんのご議論をお聞きしまして、これだけはお話しておかなければいけないと思いましたので、発言させていただきます」
 福山は、祐介の新聞にも毎月コラムへの投稿を依頼しており、海外も含めて幅広く活躍している人である。
 そういうこともあって出雲には、毎月のように戻っているようだ。
 「この計画を初めてお聞きした時は、心がウキウキするほど、その実現を期待しました。しかし、同時に皆さんから不安の声が出ているように、危険な側面もあるということを良く考える必要があります。バブル期やその後も含めて各地でアミューズメントパークなど観光施設が乱立と言っていいほど建設されました。そして、その事業主体には多くの場合、自治体が関係しています。つまり、建設業者は完成した時点で儲けて終わりです。しかし、そこには多くの建設資金の負債が残ります。さらに多額の維持費も生じます。それによって一民間業者では倒産に追い込まれることくらい予想できます。ですから、第3セクターだなどといって、その事業体に自治体を入れたのです。そういった事業を、国が推奨し、全国で行われ、今、その多くが破綻していることは良くご承知のことでしょう。建設業者と銀行の儲けのために、全国の数多くの自治体の財政を借金地獄に落とし入れてしまいました。正確には、建設業者や銀行の背後にいる大口株主、つまりその出資者の儲けのためと言ってもいいでしょう。本日、この財政計画を拝見しましたが、これも多くの自治体がやってきたことと同じです。つまり、自らの計画を進めるために最もスムーズにいったか、あるいは有り得ないほどの夢をその計画に描くわけです。しかし、その殆どは、見込み違いで破綻しているのです」
 福山の話は、今の出雲市には時宜を得た指摘で、参加者も、聞き入っている。
 祐介は、福山の写真も撮った。
 「今、出雲大社に関わる集客力は、およそ年間200数10万人と聞いています。それを、300万人にまで増やす計画となっています。先ほど、老人会の代表の方も、自分たちが出かけることができないのに、どうして他からは来る人が増えると言えるのかといったことを述べておられましたが、まさしくその通りです。今の状況では、今後200万人を割る心配すらあります。その上、1000円もの入場料を支払って、神殿に上がろうとするでしょうか。おそらく、お近くの方々は上がらないでしょう。ですから、100万人どころか、せいぜい年間に2・30万人もあればいいと見るべきです。そうなりますと、その収入は半分以下という見積もりになります。それくらい、厳しい時代だという認識がなければいけないということを敢えて言わせていただきます。従いまして、もし、この計画を実現しようとするならば、国や県がもっと財政支援しなければ成り立つ計画ではないということです。時間を取って申し訳ありませんが、もう1点だけ。先ほど申し上げましたように、いわゆる『箱物』と言われる建設や土木に関するところへ、まるで湯水のごとくお金をつぎ込んできたことが、今の財政危機の主たる原因です。それに懲りずに、未だにオリンピックの誘致だなどと夢を見ているところもあります。私は、それを大きく変える必要があると考えています。特に、出雲は、神社や古墳を含めた遺跡が数多くあり、全国でも屈指の歴史的遺産王国と言ってもいいでしょう。それらの遺産は、出雲にとっては、まさしく『宝物』です。その『宝物』の持つ意味を解明することこそ、まず急ぐべきではないでしょうか。その上で、明らかになったその出雲を、全国あるいは全世界に知らせていく。そこにこそ、出雲の発展のキーワードがあると考えています。そして、それは、出雲の皆さんにしかできませんし、必ずやできると私は確信しています。よく『地域の活性化』ということが言われます。それが、単なる観光化、つまり観光客にのみ頼るような他力本願だと、多くの場合は破綻に追い込まれています。ましてや、人の住めなくなるような大型開発による『活性化』など、単なる財政を破壊する行為でしかないと早く気づかなければいけません。逆に、そこの住民が主体となって、いかに住みやすい街づくりをするかといったことが中心に議論されている所では、成功しています。長くなって申し訳ありませんでしたが、そのあたりを、よくご検討された方がよろしいかと思います。以上です」

 一同は、大きく考えさせられたようで、少し沈黙があった。




                                 



  邪馬台国発見

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