=歴史探訪フィクション=

 人麻呂の怨・殺人事件


第3章

 出雲古代歴史研究所には、朝からプロジェクトの関係者が次々と集まってきた。今日は、『出雲古代神殿再建プロジェクト』の今年度3回目の全体会議である。県や市の自治体関係者、学術研究者、地元の商工会や住民代表、出雲大社社務所、観光協会等々から、総勢30名ほどで構成されている。
 その中心的役割を果たしていた大泉理事が殺害されたこともあり、今後の推移が注目されているのだろう、いつもより、マスコミの取材陣も多い。
 その中に、祐介の姿もあった。
 定刻の9時になり、司会の三上理事長補佐により開会が告げられ、まず最初に大泉前理事を偲んで参加者一同による黙祷がささげられた。
 そして、引き続き加藤理事長による開会のあいさつがあり、祐介は、会場内を撮影し、また席についた。
 「・・・改めて大泉氏のご冥福をお祈りすると共に、そのご遺志を無駄にするようなことはしないと、今、硬く決意しているところです。本日は、予定地の変更案件もあります。また、財政的な方針も取りあえずの案ではありますが提示しております。今後のプロジェクトの方向を大きく左右する重要な案件です。皆様の忌憚無きご意見を賜り、十分な議論が尽くされることを心から願いまして、開会にあたってのご挨拶とさせていただきます」

 加藤理事長の挨拶が終わり、司会の三上が、その日の議事について説明している。
 「では、議事日程についてはご異議が無いようですので、早速提出しております議案について、勝山事務局長の方からご報告させていただきます」
 勝山の報告が始まり、みんなの目は、その資料に集中した。
 祐介も、資料に目を通しながら、報告のポイントとなるところをメモした。
 今回、建設地の変更が新たに提案された。

 当初の案では出雲大社に近く、大きな混雑が予想されるということで、海岸に近い案が出されていた。しかし、そのあたりには、『仮の宮(上の宮)』、『下の宮』、『仮の宮荒神社』、そして奉納山の頂上にも『出雲手斧神社』があり、神社の密集する場所だ。奉納山の中腹には、出雲阿国の石碑もあり、そういった施設をどうするのかも大きな問題である。
 提案では、奉納山の南側を削るようになっており、それらの神社や石碑は、そこから続く西向きの斜面に移設するとあった。神在祭で全国から神々が集合する現在の『仮の宮』は、少々狭いので、かなりの広さを持った神社が建設されるともある。ただ、直接それを建設するのは、宗教的行為に支出することになるため、立ち退き料という形を取るとされていた。
 勝山事務局長の報告が終わり、次に財政計画や周辺での説明会の開催など、当面する諸課題についても報告された。
 「報告事項は、以上です。では、これらの報告に関して、ご質問やご意見がございませんでしょうか」
 司会の三上が言うと、3名ほどの手が挙がった。
 「はい、神田さんどうぞ」
 「出雲大社の神田です。このたびの建設予定地の変更については、あらかじめこちらにも打診をいただいたので、検討しました。確かに、現在の『仮の宮』は、決して広いとは言えません。これを機会に広い場所に移転するというもの、その選択肢として無い訳ではありませんし、むしろ、いい機会なのかもしれません。しかし、神在りの祭祀は、その広さや使い易さではなく、その場所にこそ意味があると考えています。古来より、その場所での祭祀が伝えられて来ている訳ですから、安易に移転することが好ましいとは思いません。当初の案では出雲大社に近くて混雑するからというのが、今回の建設地変更の理由だそうですが、神殿は、創建当時、出雲大社の地付近に建っていたようです。そうなりますと、むしろ以前の案の方が妥当ではないかとの意見も出されました。それだと、奉納山周辺の神社を移設する必要もありません。その建設地が離れるということは、参拝者はそこまで移動しなければなりません。そうなりますと、その神殿を訪れる人も当初の案よりも減少しないかとの疑問も出てきます。そういうことで、本日提案された移設に反対するということではありませんが、もう少し元の案との比較検討をすべきではないかというのが、今の当方の意見です」
 「ありがとうございます。では、先ほど手を挙げていたそちらの方どうぞ」
 「地元連合自治会長をしております道上と申します。地元住民を代表して意見を述べさせていただきます。基本的には、このたびの神殿建設に反対ということではありませんが、いくつかの不安が出ております。1つには、先ほどの報告にもありましたように、多くの観光客から見下ろされるということです。それ自体も嬉しいことではありませんが、昼間、北向きの窓を開けられなくなるというのは、ちょっと困るということです。夏の時期になりますと、どうしても北風を入れようと開けっ放しにします。そうしますと、神殿から丸見えといった状態になってしまいます。まあ、カーテンをしたり簾をすればいいと言われるかもしれませんが、建設予定地がどちらになったとしても、そういった不安があります。この神殿建設で出雲の発展につながるのであれば、少々のことは我慢しなければならないと考えておりますが、その点のご配慮もよろしくご検討いただきたい。以上です」
 「ありがとうございます。もう1人おられましたが、はいどうぞ」
 「同じく連合自治会の書記をしています池口と言います。私たち住民は、出雲大社の地元にあって出雲大社とともに生きていますから、それに誇りを持っています。しかし、今、市民は、住民税や国保税、あるいは都市計画税や消費税などと多額の税金に苦しめられています。特に年金生活者や高齢者の方は、介護保険料だの後期高齢者保険料だのと、生きることすらままならないというのが実態です。そんな時に、市の財政に新たな借金を積み増しするような計画は考え直して欲しいという声もあることをよくご理解いただきたい。今の出雲市の財政事情で、このような神殿を建設するということが、本当に必要なのかどうかということです。市は、何かあると『財源が無い。財源が無い』ということを言われます。しかし、その一方で、決して安価ではない事業に市民の多額の税金をつぎ込もうとされています。つまり、もう少し税金の使い方を考えるべきではないかということです。結局は、そういった借金は、市民に降りかかってくるのですから。建設をめざすプロジェクトで言うべきことなのかどうかは分かりませんが、かなりの方から出ていた意見でしたのでご報告いたします」
 その池口という人は、かなり語気を強めて発言していた。
 それは、市民からすれば最もな声であろう。
 「はい」
 「どうぞ」
 「地元商工会の伊藤と言います。確かに、市の財政は大変です。同時に業者も大変です。店舗を閉める所もあります。バブルの時期のような景気はもう来ないだろうと皆言っています。本当に底が抜けたような不景気感が私たち業者の中にはあります。だからこそ、今、多くの人々を呼び寄せる計画が必要ではないでしょうか。ぜひともこの計画を実現していただきたい。それこそが、出雲に生きる者の取るべき道だと考えています」
 それも、商店を営む人の声かもしれないと祐介は思った。
 「借金をこれ以上増やしてどうするんだ」
 出雲市の将来を考えれば建設すべきだ」
 あちこちで声が飛び交った。
    


                                


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