オーシャン・ドリーム号の悲劇 船 ・・・20年目の夏
1.
 「おはよう」

 福山が、いつもの第3スタジオに入ると、キャスターの中里と構成作家の佐伯澄子が打ち合わせをしていた。
 「おはようございます」
 いつもの中里のかわいい笑顔がある。
 他にチーフディレクターとADが慌しそうにしている姿もあった。
 「おはよう。今日もよろしくね。福ちゃん、これ、今日のタイムスケジュールよ。中心は、高校野球になるけど、よろしくね」
 佐伯が福山に資料を手渡した。
 「そうだね。いよいよ横浜港南高校の決勝戦進出をかけた準決勝が今日の午後だから、俄然盛り上がってきたよ」
 「福山さんも甲子園に出場してらっしゃるから、当時のことを思い出されるでしょう」
 「ええっ! 甲子園に出・て・た・の?」
 中里の言葉に佐伯が驚いていた。
 「私も、先日、ADの方から聞いたんですけど、ピッチャーをされていて、サウスポーで、アンダースローだったそうですよ。なんでも、7色に変化する得意の魔球で打者を翻弄していたって言ってましたよ」
 「すっご〜い。そうなの。驚いちゃった。福ちゃん、甲子園球児だったのね」
 「魔球は大げさだなあ。まあ昔のことですよ。でも、ADの森田君は、まだ若いのに良く知っているね」
 「高校野球のファンで、古い映像とかも結構見ているそうです」
 「そうなんだ。そんな映像が今も残っていると思うと、ちょっと恥ずかしいなあ」
 「私も後で見せてもらおうかな」 
 「んん〜、ちょっとそれは勘弁して欲しいな」
 佐伯の言葉に福山が、戸惑ったように言った。
 「冗談よ。でも、半分は本気かな。福ちゃんの若き青年時代の勇姿も、まんざら興味がない訳じゃないわよ」
 そんな取り留めのない会話もそこそこに、みな自分の持ち場の確認や準備に入った。
 オン・エアーの時間が迫ってくると、次第とスタジオに緊張感が漂ってくる。
 番組は、音楽も交えながら、その日のニュースやいろいろと話題になっていることなどを中心に構成されていて、気軽に聴ける番組として人気上昇中だった。
 それには、キャスターの中里のさわやかなキャラクターもさることながら、福山の軟らかい口調ではあるが、ちょっと辛口の世評解説も人気度アップに少なからず貢献していた。
 その日、福山は、先日、前の職場の同僚から聞いたことが頭から離れなかった。
 あまりにショッキングな話で、今日の特集の『20年目の夏』に大きくかかわる内容でもあり、それにどういったコメントをしたら良いのかまだ迷っていた。
 毎年この時期になると、福山は、あの事故を思い出す。
 いや、福山だけでなく、全国の多くの人々が思い出すと言った方がいいのかもしれない。

 ・・・それは、今日と同じように暑い夏の日のことだった。
 198×年8月10日、ハワイに向けて豪華客船『オーシャン・ドリーム号』が、横浜港を出港した。
 その年、横浜大洋汽船が新しく豪華客船を完成させ、その処女航海として企画されたもので、招待された各界の著名人も多数乗船していた。 
 同日、T新聞の横浜支社に勤務していた福山が、仕事を終えて帰宅しようとした頃だった。
 随時流されている全国通信社から配信されるニュースに、ハワイ行きの豪華客船が、夕方6時38分緊急事態を発信した後、音信不通になったとキャスターが興奮気味に伝えていた。
 同僚の黒岩と明日の取材について打ち合わせを済ませたところで、その黒岩もテレビ画面に見入った。
 「どういうことだ。何が起きたんだろう」
 テレビでは、繰り返し、そのニュースを配信している。
 「大事に至らなければいいんだが」
 福山は、黒岩と顔を見合わせた。
 「そうだな」
 黒岩も心配そうな顔つきをしている。
 ところが、その心配は、ほどなくして現実のものとなった。
 「続報です。先ほど、自衛隊から防衛庁に入った連絡によりますと、オーシャン・ドリーム号は、太平洋上において沈没した模様です。繰り返します・・・」
 「何だと、オーシャン・ドリーム号が沈没だって! おいっ、これは1面差し替えだ。福山、すぐに、横浜大洋汽船だ! あと誰か1名連れて行け! 急げ!」
 高山デスクの雄たけびのような声が、響いた。
 「はい。おい、黒岩、行くぞ」
 「よし」
 二人は、直ちにその客船を運航している横浜大洋汽船の本社へ向かった。

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