オーシャン・ドリーム号の悲劇 船 ・・・20年目の夏
19.
 福山は、オーシャン・ドリーム号沈没の時に、何度か取材した横浜大洋汽船にやって来た。

 あの頃、乗船客の受付業務を担当していた職員が、今、運行担当部長になっていた。あらかじめ連絡を入れていたので、窓口でそのことを伝えたら、すぐに出てきてくれた。
 「これは、福山さん、お久しぶりです。あの時以来ですが、お変わりないですねえ」
 「そうですか。でも、よく覚えていただいてましたね」
 「いえいえ、私の方こそ覚えてもらっていてうれしかったですよ。お名前は、お聞きしてすぐに分かりました」
 久坂部長は、当時、細身だったように思ったが、今は、少々太り気味で、部長の貫禄がでていた。
 「あの事故以来お見かけしないと思ったら、退職されていたんですね。本当に大変な事故でしたからね。で、今日は、どういったことをお尋ねに?」
 「実は、最近、オーシャン・ドリーム号のことを再度検証するといったことがありまして、当時のことをちょっとだけお聞きしたくてお伺いしました。お忙しいところ申し訳ありません。確か、あの当時、乗船客の受付担当をされてましたよねえ」
 「そうでしたが、それが何か・・・」
 愛想の良かった久坂の顔がちょっと緊張気味になった。
 「あの時、東横汽船の森社長が乗船されていましたが、それは、こちらからご招待されたんですよねえ」
 「はい、そうです。同業者でしたし、何かとお世話になっていましたから」
 「もう一人、坂倉という当時40過ぎの男性も乗船しているのですが、彼も招待客だったのでしょうか」
 「ああ、その人ですか、ほとんどの招待客は、それなりに私どもと関係の深い人たちだったのですが、その人のことは私にはよく分かりませんでした。だから、どうしてこの方に案内を出すのだろうとは思いました」
 「でも、ご招待されたんですよねえ」
 「そうです。ただ、先ほどの森社長さんもそうですが、当時の私どもの専務から案内を出しておくようにとの通知があったので、そうしたまでです。それも、その出発の1年ほど前でした。まだようやく準備に入った段階で、案内を出すのはまだ先の話でしたから、ずいぶんと手回しがいいなあと思いました」
 「専務さんがですか?」
 「そうです。ああ、そうだ。あの頃、若い人が、専務を尋ねて来られました。そのすぐ後に、専務が先ほどの指示をしましたから、きっとその方との話でそうなったのではないかと思います」
 「専務さんが、その人から、そういったことをお受けになったということですか」
 「あくまで私の憶測ですけど。でも、そうとしか考えられません。坂倉という人など専務と特に関わりがあったとも思いませんし」
 「その専務さんは、今どうされてますか?」
 「もう2年前に亡くなりました」
 「そうですか。ところで、あの時の乗務員の方の人選は、誰が決められたのでしょうか」
 「どうでしょうか。私には分かりませんが、運行部長が決めたのではないでしょうかねえ」
 「そこに専務さんの指示があったかどうか分かりませんか」
 「さあ、そこまでは・・・」
 「あとひとつだけ。その専務さんは、当時の神浜防衛庁長官とお付き合いはありませんでしたか」
 「当時、私どもの業界は、神浜氏を応援していましたから、社長も含めて、結構応援していたようです。相当、献金もしていたんじゃないでしょうか。そんな噂も流れていました。実は、神浜氏の不正をリークしたのは、うちの会社の関係者ではないかとも言われていました。当時は、絶対に誰もそのことは言いませんでしたけどね」
 「そうですか。それが、当時の組合の幹部だったということはありませんか」
 「そ、それは、私の口からは申し上げられません」
 久坂部長は、ちょっと、慌てた口ぶりだった。
 「そうですか。どうもありがとうございました。お忙しいところ申し訳ありませんでした。大変参考になりました」
 「福山さんも、どうか、お元気でご活躍をお祈りいたします。あっ、ひとつ思い出したことがあります」
 「なんでしょう」
 「先ほどお話した、専務を尋ねてきた人というのは・・・」
 「神浜長官の亡くなった木中秘書だったのではありませんか」
 「ええっ、そうですが、どうして・・・」
 「やはり、そうでしたか。どうもありがとうございました」
 「いえ」
 ちょっと、心配そうに見送る久坂部長に挨拶を述べて、福山は、横浜大洋汽船を後にした。
 福山は、思った以上の情報を得ることができた。
 『よし、あとは黒岩からの連絡待ちだ』
 福山は、ネオンが瞬く横浜の街を、タクシーの窓から眺めながら、横浜FMへ向った。
 「福山です。今、社の前に着きました。これから、大丈夫ですか。はい、では、待ってます」
 福山は、あらかじめ、打ち合わせをしようと言って、いつもの番組の担当ディレクターの若木と待ち合わせをしていた。
 「すみません。お待たせしました」
 「悪いね。年末で忙しいというのに」

 「大丈夫です。ちょうど、仕事が一段落したところでしたから」
 タクシーは、二人を乗せて、いつもみんなで行く東○軒へ向った。
 「先日のオーシャン・ドリーム号の件、構成作家の佐伯さんにもお話しておきました」
 「そう。ありがとう。今、いろいろ調べているんだが、すごい企画が組めるかもしれないよ」
 「すごい企画ですか?」
 「政界を揺るがす大スクープだよ」
 「ええっ!」
 「冗談だよ、冗談。でも、かなりインパクトのある番組ができるかもしれないよ」
 二人が東○軒に入ると、賑やかな店内の奥にある、静かな部屋へ案内された。
 「だからね。とても、偶然の事故だったなんてあり得ないんだよ」
 「でも、本当でしょうか。佐伯さんも、どうしようかと頭を悩ませていました」
 「もう少し調べたら、ほぼ全容が明らかにできそうだ。だからと言って、何かを暴くといった番組にするには難しいから、どこかにポイントをあてた方がいいと思うよ。たとえば、亡くなった誰かの生前にスポットを当てるとか。まあ、また企画案を出すから、検討してよ」
 「そうですね。そう云えば、佐伯さんがね、福山さんが甲子園に出場された時の録画を観たそうですよ」
 「ええ〜。とうとう見られてしまったか」
 「えらく感動したらしくて、『福ちゃん、とっても素敵なのよ〜』、なんて言ってましたよ」
 「やめてくれよ」
 「それでね。サインボールが欲しいみたいなことも言ってました」
 「彼女もミーハーなところがあるからなあ」
 「彼女だけじゃないですよ。私もお願いします」
 「そう。じゃあ、また持っていくよ」
 「本当ですか。きっと佐伯さん喜びます。私のも忘れないでくださいね」
 「分かったよ」
 いよいよ、その年も暮れようとしていた。

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