オーシャン・ドリーム号の悲劇 船 ・・・20年目の夏
21.
 正月気分もようやく抜けてきた1月の中頃、福山と黒岩は伊豆へ向かった。

 その途中の新幹線の中で、福山は、今の関東プロデュースの仕事の関係で大志野元総理と会うことになった経過を話した。
 「大志野がオーナーで、伊藤元秘書官が総支配人とは、よく出来た話というか、何か他に理由がありそうにも見えるよなあ。単なる昔なじみとか腐れ縁だとは思えん。伊藤の役割は、伊藤本人が言うように『首輪を付けられた飼い犬』なのか、大志野が言う『見張り役』なのか、どちらが正解なんだろう」
 「おそらく、どちらとも正解なのかもしれないよ。『飼い犬』を演じる『見張り役』ということかもな」
 「『番犬』か。では、飼い主は、大志野だろうか。大志野の言葉からすると、飼い主は別に居るようにも聞こえる。しかし、大志野も、よくまた会うと言ったな」
 「ホテル完成の記念品を贈呈すると言ったら、OKしてくれたよ。アメリカ駐日大使から豪華な柱時計をもらっていたから、それ以上に感動する物を贈ると言ったんだ」
 「いったい、何を贈る気なんだよ」
 「ふっふっふっ。これだよ」
 福山は、バッグの中からカセットテープを取り出した。
 「あの、盗聴を記録したテープか」
 「ああ、そうだ」
 「大丈夫か。そんなものを聴かせて」
 「そうだな。大志野が、はたしてどういう態度に出るか楽しみだ」
 「おいおい。脅していると思われるぞ」
 「まあ、そうかもしれない」
 「『そうかもしれない』って、元総理を脅してどうする気だよ。ただでは、すまんことになるぞ」
 黒岩は、福山の本心を計りかねた。
 「俺たちは、この間、8割方オーシャン・ドリーム号沈没の原因が解明できた。しかし、まだ足りないものが、1つだけある。それは、唯一の生存者である岸本耶須子からの証言を取ることだ。たとえ、居場所が分かったとしても、会うことはできんだろう。つまり、脅迫の見返りは、彼女との接見だ。おそらく、それくらいのことができる力はまだ持っているだろう」
 「そうか。それが目的だったのか」
 「いやあ、それだけではないよ。まだ聞き出したいことはあるから、何とか、口を割らせるには、これくらいのことは必要だろう。もし自分の身に何かあったら、このテープのコピーが各新聞社に送られ、そして、インターネット上でも公開されることになるとでも言っておけば、手荒なまねはできんよ。まあ、余計な心配はするな。俺にまかせておけ」
 「大丈夫かなあ」
 新幹線は、小田原に近づき、左手には、相模湾が見えていた。
 「そうだ。そう云えば、ちょっと調べていたんだが・・・」
 黒岩が、バッグからメモを取り出した。
 「亡くなった木中秘書が手にしていた紙にP⑦という暗号のような文字が残されていたと、この前、言っただろう」
 「そうだったな」
 「その後、神浜防衛庁長官の経歴を調べていて、あることが分かったんだ」
 「何が?」

 福山は、黒岩が、何を見つけたのか気になった。
 「神浜は、海軍出身だったよな」
 黒岩は、メモを見ながら、福山に説明した。
 戦争末期、もう敗戦色濃い時期に至り、日本海軍は帰還不能の自爆戦術を模索するようになった。当初は、否定されていたものの、戦局が悪化する中、『神風特攻隊』だなどといったことが行なわれるようになった。軍部は、さらに、1944年3月、戦局の挽回を図るなどと「特殊奇襲兵器」なるものの試作を決定した。それが、①から⑨まであり、その⑥が、人間魚雷、『回天』とも呼ばれていた。文字通り人間が操縦する魚雷で、帰還不能を前提とした兵器であった。
 「人間魚雷『回天』のことを、耳にしたことがあっただろうが、そのコードネームとでも云おうか、暗号名が『まるろく』だったんだよ。その由来は、⑥だ」
 「なるほど。では、⑦は、どういった兵器を意味していたんだ」
 「⑦は、電波探知機、『電探』と呼ばれていた。つまり、レーダーのことだ」
 「⑥が、人間魚雷で、⑦がレーダーとなると・・・」
 「P⑦とは、レーダーで自己制御する魚雷型巡航ミサイルを意味していると考えられないか」
 「コードネームは、P⑦、つまりプロジェクトまるなな、今風だとプロジェクトセブンか。ということは、海軍出身の神浜は、魚雷型巡航ミサイルでオーシャン・ドリーム号撃沈を密かに計画していたということだ。その作戦のコードネームが、P⑦だよ」
 「では、木中秘書が、P⑦というメモ書きを残していたのは、まさか・・・」
 「そうだな。彼は、その計画に感づいて、坂倉や森社長のことを調べていたのだろう。あるいは、それを阻止しようとしたのかもしれん。そして、当時、脅迫犯が過激派に関係があることをたれ込んだのも木中秘書なのかもな」
 「ところが、それに気づかれ、逆に消されてしまった・・・」
 「まあ、断定はできんが、その可能性は出てきたかな」
 「ということは、神浜は、米軍に魚雷攻撃させたのか」
 「させたか、あるいは、当時、実験段階にあった魚雷型巡航ミサイルの『試し斬り』を米軍から求められていたのかもしれん。広島・長崎に原爆投下をしたのも人体実験のようなものだ。あるいは、中性子爆弾の試行実験も兼ねていたのかもな。それを神浜は利用した。そんなところだろうか」
 「つまり、動機は複合的だったということか・・・」
 2人は車窓から見える相模湾を眺めていた。
 福山は、この海の遠くで、どす黒い思惑のために沈められた人々が、今もその深海に沈んだままであることに、深い憂慮を感じずにはいられなかった。
 そして、熱海駅からタクシーで大志野邸にやってきた。
 「いよいよだな」
 「ああ」
 福山は、これから大志野との対決を前に、身が引き締まる思いだった。
 はたして、大志野がどんな対応をするのか、想像はできなかった。
 出たとこ勝負でしかない。
 「しかし、でっかい家だなあ」
 黒岩は、玄関から入ったあたりで、その全体を眺めていた。
 「さあ、入るぞ」
 先日と同じ部屋に案内され、大志野が出てくるまでの間、福山は、そこから見える庭を眺めていた。
 すると、池の手前に、椿が咲いているのが見えた。
 「綺麗な椿だ。んっ? 椿なあ」
 福山は、伊藤総支配人の年賀状にあった短歌を思い出していた。

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