オーシャン・ドリーム号の悲劇 船 ・・・20年目の夏
7.
 ちちっ、ちちっ、ちちっ。

 小鳥のさえずりが、耳に心地よい。
 久しぶりに、我が家の部屋で目を覚ました。
 福山は、テーブルに置いているパソコンの電源のスイッチを入れ、携帯電話に入っているメールをチェックした。
 ここは、都内の北区にあって、側を流れる荒川を超えると埼玉県になる。
 以前は、横浜に住んでいたが、会社の立ち上げに伴い東京に移った。
 ビルの一角を借りていて、一階は駐車場で、2階が事務所、3階が住居部分となっている。窓からは、荒川の土手沿いをジョギングする人の姿も見える。
 しばらく、出張が続いたので、今朝はゆっくりとしている。
 パソコンには、この間、企画を提供し、無事オープンセレモニーも終えた神奈川ブライダル・セントパレスの総支配人からお礼のメールが入っていた。結婚式場や各種イベントにも使え、和食・洋食・中華といったレストランも入って多様な利用のできるホテルとなっている。設計の段階から関わっていて、広告も含め全体の構想と施工をその総支配人と一緒に手がけてきた。マネージメントとしては、それほど難しくもなかったが、オーナーが相当な頑固者で、その意向に反したら一歩も前に進まなくなってしまうのだ。
 オーナーには、近々、最終報告に行く予定だが、そのオーナーとは、新聞記者時代にも顔をちょくちょく合わせたことがあり、総支配人もよく知っていた。それはたまたまで、依頼があったのは、その設計事務所を通してだった。こういった仕事は、いかに知り合いを増やすかがすべてで、それが営業でもある。誰しも、少しは馴染みのあるところへまずは相談しようと考える。信用第一である。
 2階に降りると、『関東プロデュース』の副社長でもある妻を含めて数名が、何やら打ち合わせをしているようだ。
 福山は、主に外出が多いので、ほとんどはその妻が切り回している。
 「社長、こちらが、先月の事業報告と今月の予定です。アジア観光とプレスジャパンの企画が合意完成に至りました。今月は、品川電気工業の新ビル建設にむけての企画提案が中心となります。あと、太陽建設の・・・」

 アイドル歌手を目指したという経歴をもつ進木雪絵が、報告書を福山に手渡した。その持ち前の理知的な美貌と愛想好しのキャラで、対外的な交渉は主に彼女が担当していた。クライアントの受けも良く、本人も、今、絶好調といったところのようだ。一方、進木は、高校時代剣道部に所属していて、関東大会で優勝し、インターハイでも3位だったという腕前の持ち主でもある。彼女が、女性剣士だなどとは誰も思いもよらない。
 実は、福山の妻理恵子も若い時は『仲原絵利』という芸名でアイドル歌手としてデビューしており、ヒット曲も数曲ある。
 だが、元来、ぶりっ子の苦手な理恵子は、さっさと引退し、歌手を育てる方へ回っていた。その頃、福山と知り合った。だから、今も、多くのプロダクションとも交流があり、その関係で、進木もこちらに来た。結婚してからは、デザイナーを志し、清涼飲料のロゴから建築関係、あるいは遺跡関連の雑誌のイラストまで様々な方面のデザインを手がけている。
 「ああ、あとは見ておくよ。ありがとう」
 福山は、自分のデスクに腰掛けると、妻がコーヒーを入れてくれた。
 「神奈川のセントパレスは、大変だったわね」
 「ああ、あのオーナーの翁は、一筋縄ではいかないからなあ。でも、あの人の操縦方法は心得ているから、そんなにもトラブルことなく完成にこぎつけてよかった。まあ、もう少しのお付き合いだ」
 「これは、来年だけど、アジア観光フェスティバルが、幕張で開催される予定になっていて、その打ち合わせが来月都庁であるそうよ」
 「ああ、それね。まあ、まさか断るわけにはいかないよなあ」
 「営業、営業。これ、彩華の次の舞台よ。観に行ってあげてね。私は初日に行く予定にしているけど」
 妻は、また打ち合わせに戻った。
 娘の彩華は、今、劇団に所属していて、舞台俳優の道を歩んでいる。
 福山は、その2枚の案内状に目を通していると、携帯電話が鳴った。
 「はい、福山です」
 電話は、黒岩からだった。
 「俺だ。黒岩だ」
 「おう、どうした?」
 「あれから、いろいろ調べたんだが、大変なことが分かったんだ。それで、自衛隊からも取材をしていたら、とんでもない物が手に入った。ちょっと、合える時間はないか」
 黒岩の真に迫った声は、ただごとではなさそうだ。
 「そうだなあ。じゃあ、今夜、都合をつけるよ。どこへ行けばいい」
 「じゃあ、『天海』で、7時はどうだろう」
 天海とは、T新聞社の斜め向かいにある中華料理店で、福山も、時々本社へ行った時などに行くことがあった。
 「わかった。必ず行くよ」
 「急で悪いな」
 「気にするな。じゃあ」
 福山は、その日の朝刊に目を通しながら、コーヒーをすすった。
 黒岩は、いったい何を手に入れたというのだろう。   
                                                 

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