オーシャン・ドリーム号の悲劇 船 ・・・20年目の夏
8.
 福山は、昔懐かしいT新聞社の本社ビルを眺めながら、『天海』に入った。待ち合わせをしていることを伝えると、奥の部屋に案内され、すでに、そこには黒岩が座っていた。

 「突然呼び出して悪かったな」
 「大丈夫だ。この間、ほとんど毎日予定が入っていたから、息抜きができてむしろありがたい。それより、先日、お前の企画の提案を断ったから、怒ってもう声がかからないかと思っていたよ」
 「正直、残念だった。でも、考えてみたら、思いつきであんなこと頼んでむしろこちらの方こそ悪かったよ」
 「で、何か分かったと言っていたが、何が分かったんだ」
 黒岩は、手元に置いていた封筒からコピーしたものを取り出して、福山の前に置いた。
 「これは、あの事故の調査結果の一部だ。問題は、ここだ。オーシャン・ドリーム号が横浜大洋汽船と交わした交信記録だ」
 福山は、その記録を見た。
 「ん? これはどういうことだ?」
 「お前も変に思うだろう」
 「ここにもあるように、8月10日午後6時38分緊急事態を発信した後、通信が途切れたことは分かっている。ところが、そのおよそ1時間前の5時35分に動力に異常が発生したので停船すると連絡が入っている。こんな交信があったなんて聞いたことなかったぞ」
 「当時は、特に問題がないので公開する必要はないと思ったのか、あるいは秘匿したのか、それは、よく分からない。だが、これは何か沈没に関係があるんじゃないかと思うんだよ」
 「そうだなあ。直接に関係するかどうかは分からないが、あるいは何か関わりがあるかもしれないな」
 黒岩は、料理を食べる手を止めた。
 「俺はな、その動力に生じた異常が、内部の問題ではなく、外部からの何らかの要因によるものだと思った。その原因こそが、米軍、あるいは自衛隊の魚雷実験ではないかと考えたんだ。だが、お前も言うように、根拠がない。そこで、まず、当時の訓練記録を調べたんだよ。その訓練内容までは教えてはくれなかったが、その日、あの付近の海域で米軍と自衛隊の合同訓練が行われていたことは突き止めることができた」
 「そうか。なるほどそうなると、新型魚雷の試行実験が合同で行われていたという想定の可能性は否定できないな」
 「そういうことだ。あとは、その十分な確証となるものを手に入れることだ。そこで、最近、自衛隊の中で自殺が増えているという問題があるんだよ」
 「自殺がか?」
 「ああ、それも、年間およそ50件。多いときは100件近くになる年もある。これは、どういうことだ。いったい、自衛隊に何が起きているんだ。それで取材を申し入れた。そういう内容であれば、新聞社としてもあり得る取材だろう」
 「なるほど、新聞社としても自衛隊としても、それぞれが納得せざるを得んということか。旨くやったな」
 「単純に考えてはだめだとお前に教えてもらったからな」

 「誰もそんなことを教えた覚えはないぞ」
 黒岩は、ビールを一口飲んだ。
 「勝手に学んだのさ。で、防衛庁の広報でその資料を見せてくれる許可が下りた」
 「ほう、許可したんだ」
 「それで、まずは、なんとか防衛庁の資料室へ入ることができた。ところが、かなりの量の資料だから、何回か足を運ぶことになり、そこの資料室で調べていたんだよ。すると、お前も覚えているだろうが、あの事故の取材をしている時に、自衛隊の広報担当がいただろう、ほら何ていったかなあ。覚えてないか」
 「覚えてないよ」
 「そうだ、斉藤だよ。あの事故の時に、裏があるようなことを、そっと教えてくれた隊員だ。でも、結局、その裏は全然つかめなかったがな。その斉藤が、たまたま入ってきたんだよ。それで、何をしているんだと聞くから、その調査について話したら、そんな表向きの資料などを見ていても何も分かることはないと言って、奥の方から、この写真を出してきたんだ。これは、そのコピーだ」
 そう言って、黒岩は、数枚の写真のコピーしたものを福山の前に出した。
 福山が、それを見ると、迷彩服を着て木にロープで首を吊った2人の男が写っていた。
 福山は、思わず目をそむけたくなった。
 森の中の一本の木にぶら下がる自衛隊員の遺体は、いかにも異様だ。
 他にも、横たわる遺体の映像もあった。
 「考えても見ろよ。どちらかといえば、一般人よりも強靭な肉体と精神の持ち主だと思われている自衛隊員が、年間で多い時には100名近くが、自殺をするんだ。どう考えても変だろう。それに、この写真だ。斉藤は、これはほんの一例だと言っていた」
 「何が彼らをそこまで追い込んだのだろう」
 「それは、通常とは違う世界だから、激しいストレスがあるとは思うが、ところが、この映像は、そんなこととはまったく異なることが示されているんだよ」
 「えっ、何が?」
 「よく見てみろよ」
 「あっ」
 福山は、もう一度その映像を見た。すると、その実態が垣間見えると、恐怖で身が縮むようだった。

 「分かっただろう。首吊り自殺をしているのに、踏み台となるものがない。この二人は、首を吊ったのではなく、吊るされたんだよ。どう考えても異様な映像だ。どんなに思い悩んだとしても、森の中の木で男が二人並んで首は吊らんだろう。むしろ、そこまで覚悟したのなら自衛隊員だったら拳銃を使うと思わないか」
 「確かに」
 「拳銃による『自殺』もあるようだが、そして、こちらだ。どうして、自殺死体の顔にこんなに傷があるんだ。それも、そんなに古い傷ではない。かなり新しい傷に見える」
 福山は、料理が口に入らなくなってしまった。
 「自殺したとされる彼らに、はたして、どれだけ自ら命を絶つほどの動機があったのかどうか。自衛隊内では、自殺だと認定されたら警察が捜査することはない。つまり、病死や自殺だと、一切その死が、調査されることはないということだ。どういうことだか分かるだろう。たとえ殺されても、自殺の扱いにしさえすれば、完全犯罪が成立してしまうんだよ」
 「本当に、自衛隊では何が起きているんだ」

 「年間50件から100件近い自殺ということは、ほぼ毎週誰かが自殺に追い込まれていることになる。異常としか思えんよ。それも、自殺の扱いにされている件数がどれだけあるのかも分からない。どちらにしても、それだけの自衛隊員の命が消えている。あるいは消されている」
 「それは、背後に何かがあるのかもしれんな。そういう何らかの流れがな」
 「斉藤にそれとなく聞いたら、一言『教育』と言っていた」
 「『教育』? 死に至るほどのか?」
 「つまり、上司や先輩には絶対服従だといった教育という名の陰湿ないじめだ」
 「そうか、なるほど。それに少しでも反抗すれば、みせしめの『死の制裁』ということか。そう言えば、東川のおじいが語っていた冒頓が企ての前にやった『絶対服従の徹底』の話に通じるものがあるよ。まさか、時代も人も変わっても、考えることは同じだといったことなのか」
 「どういうことだ?」
 「ああ、なんでもない。そうなると、今後に向けて何らかの思惑を秘めているということにもなるなあ。さて、それはなんだろう」
 福山は、先日出雲で、東川が述べていた古代史の話を思い返していた。
 「いったい、何を言っているんだ。さっぱり分からん」
 「まあ、また話すよ。ところで、お前は、自衛隊の内部問題を追い求めていたわけじゃないだろう」
 福山は、気を取り直して、ビールを口にした。
 「そこで、斉藤にあの沈没事故のこともそれとなく聞いてみたんだ。何か知っているだろうとな」
 「いくら彼でもそこまでは話さんだろう」
 「ところが、後日、別の場所で面白いものをくれてやると言うんだ」
 「本当か」
 「ああ。そして、彼は、そっと日時と場所を走り書きしてそのメモをくれた」
 「おいおい、大丈夫かよ」
 「俺も、ちょっとびびったよ。とにかく誰にも知られずにそこへ来いと言い残して出て行った」
 「それで、お前、行ったのか」
 「俺も大分迷ったが、『虎穴に入らずんば虎児を得ず』だ。待ち合わせの場所へ行ったよ」
 「斉藤は、来たのか」
 「ああ、来た」
 その話で、福山は、更なる驚愕の事実へ近づくことになった。  
                                                    

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